第1章 抑止力としてのICC〜ICCの傘の下へ移動せよ!/3.ICCが裁く犯罪のリスト

 ICCが裁ける犯罪には、どんなものがあるのか?
 ICC規程第5条から第8条、そしてその付属文書「犯罪の要素」から書き出すと、次のようになる。

▼「ジェノサイドの罪」:国民的、民族的、人種的または宗教的なグループの全部または一部を破壊する意図で行われる、以下の行動。
(1) グループ構成員の殺害
(2) 肉体的または心理的に重大な傷害<~害, 損傷, 傷害, 危害, 害悪harm>を与えること
(3) 身体の破壊をもたらすよう計画された生活条件を故意に課すこと
(4) 出生を妨げる意図の措置を課すこと
(5) 子どもの強制移送<~transfer>

▼「人道に対する罪」:文民である住民に対する広範なあるいは組織的な指揮された攻撃の一部として、攻撃であると認識して<~with knowledge of>行われる、以下の行為。
(1) 殺人
(2) 殲滅
(3) 奴隷にすること
(4) 住民の国外追放または強制移送<~transfer>
(5) 監禁<~imprisonment>その他身体的自由の重大な剥奪
(6) 拷問
(7) 強姦
(8) 性的奴隷化
(9) 売春強制
(10) 強制妊娠
(11) 強制不妊
(12) 上記(7)から(11)までと同等に重大な性的暴力のすべて
(13) 迫害
(14) 強制失踪
(15) アパルトヘイト
(16) その他の非人道的行為

▼「戦争犯罪」
1.「国際的武力紛争」の文脈の中で、それと関係して行われる、1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の重大な違反行為、すなわち、ジュネーヴ条約の関連条項によって保護される人や財産<~property>に対して行われる、以下の行為。
(1) 故意による殺人
(2) 拷問
(3) 非人道的扱い
(4) 生物学的実験
(5) 故意による、重大な苦痛・傷害

の惹起<~causing>
(6) 財産の破壊と徴発
(7) 敵対勢力の軍務の強制
(8) 公正<~fair>な裁判の拒絶
(9) 不法な国外追放と移送<~transfer>
(10) 不法な抑留<~confinement>
(11) 人質をとること

2.「国際的武力紛争」の文脈の中で、それと関係して行われる、国際法の確立された枠組みの中で国際的武力紛争に適用される法または慣習のその他の重大な違反、すなわち、以下の行為。
(1) 文民への攻撃
(2) 民用物<~civilian object>への攻撃
(3) 人道支援活動または平和維持任務に関係する人または物に対する攻撃
(4) 過度の副次的殺傷または損害の惹起
(5) 無防備地域への攻撃
(6) 戦闘力を失った人(hors de combat)の殺害または傷害<~wounding>
(7) 休戦旗の不適当な<~proper>使用
(8) 敵の旗、記章または制服の不適当な<~proper>使用
(9) 国際連合の旗、記章または制服の不適当な<~proper>使用
(10) ジュネーブ諸条約が定め<~>る識別のための標章<~distinctive emblem>の不適当な<~proper>使用
(11) 占領地域への文民移送

(12) 占領地住民の追放または移送

(13) 宗教、教育、芸術、科学または慈善目的に供される<~dedicated,専用の>建物や、歴史的な記念物、病院や傷病者が集められる軍事目標

以外の場所への攻撃
(14) 身体切断
(15) 医学的または科学的実験
(16) 背信的な殺害または傷害<~wounding>
(17) 助命の拒絶
(18) 敵の財産<~property>の破壊または押収<~seize>
(19) 敵対勢力の国民からの、権利と訴訟提起権<~action>の剥奪
(20) 軍事作戦への参加強制
(21) 略奪
(22) 毒または毒を施した兵器の使用
(23) 使用が禁止されているガス、液体、物質、装置の使用
(24) 使用が禁止されている弾丸の使用
(25) 武器、投射物、物質、方法で、国際刑事裁判所規程の付属文書に列挙されたものの使用
(26) 人格的尊厳の蹂躙(とりわけ侮辱的で面目を失わせる待遇をすること)
(27) 強姦
(28) 性的奴隷化
(29) 売春強制
(30) 強制妊娠
(31) 強制不妊
(32) ジュネーヴ諸条約の重大な<~grave>違反を構成するその他すべての性的暴力
(33) 保護される人びとを楯にすること
(34) ジュネーヴ諸条約が定め<~>る識別のための標章<~distinctive emblem>を使用している物体または人への攻撃
(35) 戦争の手段としての飢餓
(36) 子どもの使用、徴兵、兵籍編入

3.「国際的性質のない武力紛争」の中で、それと関係して行われる、国際的武力紛争に適用されるジュネーヴ4条約の共通第3条または慣習のその他の重大な違反、すなわち、戦闘行為<~hostilities>に積極的に参加しない人びと(軍隊の構成員で武器を放棄した者、病気、負傷、抑留その他の原因<~cause>により戦闘外に置かれた者を含む)に対する、以下の行為。
(1) 生命<~life>や身体<~person>に対する暴力
(2) 殺人
(3) 身体切断
(4) 残虐な扱い
(5) 拷問
(6) 人格的尊厳の蹂躙(とりわけ、侮辱的で面目を失わせる待遇をすること)
(7) 人質をとること
(8) 適正手続を経ない刑の宣告と執行

4.国際法の確立された枠組みの中で、「国際的な性質のない武力紛争」に適用される法または慣習のその他の重大な違反、すなわち、以下の行為。
(1) 文民への攻撃
(2) ジュネーヴ諸条約が定め<~>る識別のための標章<~distinctive emblem>を使用している物体または人への攻撃
(3) 人道支援活動または平和維持任務に関係する人または物に対する攻撃
(4) 宗教、教育、芸術、科学または慈善目的に供される<~dedicated,専用の>建物や、歴史的な記念物、病院や傷病者が集められる軍事目標

以外の場所への攻撃
(5) 略奪
(6) 強姦
(7) 性的奴隷化
(8) 売春強制
(9) 強制妊娠
(10) 強制不妊
(11) ジュネーヴ諸条約の重大な<~grave>違反を構成するその他すべての性的暴力

(12) 15歳未満の子どもの使用、徴兵、兵籍編入
(13) 文民の移動<~displacement>
(14) 背信的な殺害または傷害<~wounding>
(15) 助命の拒絶
(16) 身体切断
(17) 医学的または科学的実験
(18) 敵の財産<~property>の破壊または押収<~seize>

▼「侵略の罪」(こちらを参照されたし)

 お、おぬし、読み飛ばしたな!
 せっかくのリストを、読み飛ばしたなあっ!
Yomitoba

 ……。
 まあ、仕方がない気がするので、ポイントを、マンガ化してみた。ご覧いただきたい。

 

「Special Comic ネズミ〜皇帝危機一髪 ICCの罠<国際刑事裁判所の脅威>」


 いかがだったろうか?

 ……。
 ICCが裁く犯罪のリストを眺めているとき、あるいは、「ネズミ〜皇帝危機一髪」を読んでいるとき、どんな考えが頭をよぎっただろうか?
 本や新聞で読んだ、あるいは映画やテレビで観た、具体的な事件を思い浮かべた方もいるのではないか。リストに並んでいるのは、どれ1つとして、単なる空想の産物ではない。19世紀末から20世紀にかけての世界各地の戦争、武力紛争で人類が行ってきた、野蛮行為の数々なのだ。

 ICC規程の犯罪リストを見ていると、

「戦争を2度と繰り返すな」

 という、戦争犠牲者たちの怨念にも似た訴えが、どこからともなく、聞こえてこないかい?

Onryo

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第1章 抑止力としてのICC〜ICCの傘の下へ移動せよ!/2.ICCのすごいところ!

 ICCには、画期的な性格がたくさんある。思いつく範囲で、あげてみよう。

1.勝者による後付けの裁判ではない!
 東京裁判やニュルンベルグ裁判には、「勝者による不公正な裁きだった」という批判がある。常設の裁判所が以前からあれば、こんな批判は生まれなかっただろう。もし、第2次大戦終結時点でICCがあったなら、戦勝国も敗戦国も、同様に裁かれていたに違いない。たとえば、日本軍による中国・重慶(2004年アジア杯のブーイングで、日本の若者の間でも一躍有名になった)への無差別爆撃が裁かれるのと同じように、アメリカ軍の日本各地への無差別爆撃や原爆投下も、ビシバシビシッ! と。

2.責任者処罰で、不処罰の連鎖を断ち、憎しみの連鎖を断つ!
 犯罪に責任を負う者が、国家元首や政府の長などだとしても、ICCの前で、優遇されることはない。ICC規程は誰に対しても平等に適用されるのだ(第27条)。しかも、まずは締約国の裁判所で裁かれるとしても、その裁判が不誠実なものであれば、国家から独立したICCがあらためて裁判できる。
 それゆえ、もし第2次大戦終結時点でICCがあったなら、トルーマン米大統領や昭和天皇も、きっちり有罪判決を受けていたに違いない。たとえば、前者は、原爆投下による文民虐殺を許可した罪で、後者は、さまざまな国際法違反がなされることを黙認した罪で。
 このような責任者処罰の実現は、「政治的理由と配慮」のせいでえんえんと続いてきた「真の責任者」不処罰の連鎖を、断つ。そして、被害者やその遺族の心理的な立ち直りを側面から支援し、憎しみの連鎖を断つうえでも役立つだろう。

3.責任者処罰で、戦争・武力紛争発生を躊躇させ、抑止する!
 ジュネーブ条約の「第1追加議定書」は、違反行為について「国家の」賠償責任を定めている(第91条)。だが、違反を行った者「個人の」賠償責任は定めていない。ICC規程は、個人の刑事責任、賠償責任、補償責任を定めている(第75条)。賢明な、あるいは打算的な政治家たちは、これだけでもう、開戦を躊躇すること、間違いなし!

4.個人補償と被害者への賠償制度!
 日本政府がアジア侵略戦争の被害者に対してかたくなに拒否しつづけている「個人賠償」「個人補償」が、ICC規程には、当然のものとして組み込まれている(第75条)。時の流れか、意識の違いか、さあ、どっちだろう?

5.罪に時効の適用なし!
 ICCが裁く犯罪の刑事責任には、時効が適用されず、犯行者は、法に従って罪をあがなうまで、枕を高くして眠れない。損害賠償請求にも、時効や除斥期間(旧植民地出身者が日本政府や日本企業に求める損害賠償請求は、この除斥期間経過を理由に、日本の裁判所によって却下されるケースが多い)などの出訴制限がない(第29条)。被害者のための正義の実現が、ここでも担保されているのだ。

6.被告もきちんと反論できる充実の手続保障!
 黙秘権の完備はもちろん、検察側が持っている情報を全部、被告側に教えなければならないなど、日本の刑事手続では考えられないほど、被告人の権利が保障されている(第55条、第67条など)。人道法を扱うだけあって、さすが、人権重視が徹底されているわけで、日本の刑事手続の実態と比べると、月とスッポン! 月はもちろん……。

7.人間と人権が中心!
 戦地での人間の保護、人間の尊厳、人としての権利の保護を中心に据えた、犯罪リスト!

8.普遍的でインターナショナルな性格!
 国籍に関係なく文民たる住民、兵士たちを保護する、普遍的でインターナショナルな性格は、まさに国際人道法の真髄を体現している。

9.超国家的な刑事裁判権の設定!
 刑罰権は、東京裁判など一部の例外を除き、これまで国家に独占されてきた。ICCに認められた超国家的な刑事裁判権は、将来構築されるべき超国家的共同体、たとえば世界連邦だか世界連盟だかの設立に向かう第1歩、に育てうるのだ。

10.国連から独立していて常任理事国も手出しできない!
 ICCは、国連事務総長や国連安全保障理事会と協力して権限を行使する場面もあるが、基本的に国連から独立した機関だ。だから、国連常任理事国の拒否権行使が安全保障理事会の機能をマヒさせてしまっているような事態は、ICCには起こり得ない。頼もしい!
Kakkiteki

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