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第3章 外国籍者、在外邦人と戦争/2.外国籍者保護のための条約と在外邦人保護(1)

 日本国籍を持っている読者の皆さま。

 たとえば、自分が外国にいるときに、その国で戦争が始まってしまった。そんな状況を想像してみてほしい。中には面白がる人もいるかも知れないが、たいていの人は、非常に大きな不安に襲われるのではあるまいか。

 戦時にあって、交戦国にいる外国籍文民(とくに敵国籍の文民)ほど、不安な状況に置かれる者もないはずだ。

 とくに、在日外国籍者の場合を思うと、不安を倍加させるような状況が多すぎる。たとえば、平時の日本政府、日本社会が非欧米系外国籍者に向けているさまざまな差別の熾烈さや、入管施設での収容者への仕打ちの数々(「日本のアブグレイブ」と形容されるほどだ)、政府・警察庁や東京都知事がマスメディアと組んで多くの国民の心中に培養してきた「外国人嫌悪」感情。どれもこれも、戦時をいっそう不安にさせる材料ばかりだ。しかも、戦後一貫して日本政府が在日コリアンに向けてきた排除・抑圧の手法と、今でもことあるごとに日本社会の中から吹き出す朝鮮人バッシングなどを想い起こすと、万一、日本が北朝鮮に戦争をしかけでもすれば、在日コリアンに対してどのような弾圧が向けられるか。暗澹たる気持ちになる。
 数少ない希望のひとつが、日本政府が批准している国際人道法と国際人権条約、具体的には、「ジュネーブ第4条約」とジュネーブ諸条約「第1追加議定書」、「市民的および政治的権利に関する国際規約(自由権規約)」(1976年)だ。

 以下に、まず「ジュネーブ第4条約」で「外国籍者」に特に与えられる保護と権利のうち、ICC規程と重ならない部分を、「人種、国籍、宗教または政治的意見による不利な差別なく、紛争当事国の住民全体に適用される一般原則」も含めて、おおざっぱにではあるが、条文をかみ砕きつつ、解説しておく。ジュネーブ諸条約の「重大な違反」のうちICC規程が列挙するものについては、被害者の国籍にかかわらず、行為者処罰と責任者処罰が、そして被害者への補償と賠償命令が可能になるので、本書第1章をご参照いただきたい。続いて、補足的に、ジュネーブ諸条約「第1追加議定書」の「難民と無国籍者」に関する規定と、「市民的および政治的権利に関する国際規約」(1976年)の「国家非常事態でも制限できない人権」に関する規定も、紹介する。

 「外国人には納税とか義務ばかりを教えて、社会保険の利用法とか年金の受取方法など権利に関することは教えない

 そんな悪評ぷんぷんの日本政府は、昨今ただでさえ「単一民族妄想」に取り憑かれたかのように排外的国家主義の道を爆走しており、「ジュネーブ第4条約」に違反した場合の罰則が定められていないのをいいことに、そこに記された外国籍者の権利を告知もせず、ただひたすら人権を蹂躙しようとする……なんてことが、ありえんとは到底断言できない現実があるからだ。

 外国籍の友人や家族を持っている人は、ぜひ、「ジュネーブ第4条約」の保護について、その友人や家族と語り合ってみてほしい。聞いたこともない権利を戦時下の異国で主張するなんてことは、とてつもなく困難に違いないのだから、平時のうちに。

 また、日本人ともおおいに語り合ってみてほしい。
 こういう外国籍者保護の制度があることが日本人の間で知られれば知られるほど、戦時下で、外国籍の人たちの人権が蹂躙される恐れは小さくなるに違いないから。

 今は外国籍の友人や家族がいない人も、どうかぜひ読んでおいてほしい。
 そう遠くない将来、きっと外国籍の友人や同僚ができる日が来るはずだから。
 そして、その友人や家族との絆は、海と空を越えて、遠い異国の人たちとも、つながっている。

※ ちなみにこの条約は、日本人が海外赴任中や海外旅行中に戦乱に巻き込まれたときにも、おおいに使える。おそらく、こっちの方が使用される可能性ははるかに大きいのではあるまいか。
 その意味でも、日本国籍の皆さんも、心して、お読みあれ。

(以下の解説では、防衛庁のウェブサイトにある訳文を参考にした。ただ、同サイトの訳文には、どうも原文と違うっぽい、と感じる部分が多々あったので、適宜、英文を参照しつつ、概説を試みた。外国語を母語とする友人や家族と話をするときは、ウェブなどで、彼・彼女らの母語での正文ないし原文を見つめ、プリントしておくと良いと思う。また、省略した条項も少なくないので、他の日本語訳と見比べるのも一興であろう。風流、風流。)

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