おわりに 〜疑いと熟慮を!〜
以上、あらん限りの力を振りしぼって、「ICCの傘と軍備オフの有効性」を説明してきたつもりだが、導かれた結論と提示された方法が、「20世紀的な常識」すなわち「安全のためには軍隊が必要」という多くの人がなんとな〜く信じているであろう常識、と違いすぎて、なんだか騙されてるみたいでどうにも不安がぬぐえない、という読者が、今もまだ少なくないのではないか、と思う。
「ICCに頼れば安全が確保できるって、理屈ではわかるんだけど、世の中、そんなものじゃあないんじゃないの? 理屈じゃないけどサ……」
その懸念は、健全である。
「おいしい話だよ!」
などと持ちかけられた話が「おいしい!」のは話を持ちかけているヤツにとってであって、持ちかけられた側には何のメリットもないどころか、着ぐるみとられる、じゃなくって、身ぐるみはがされる罠が待っていた、なんてことは、古今東西、よくある話で、どれほどメリットがありそうに聞こえる話でも、まず疑ってみること、そして、じ〜っくりと検討することが、身を守るうえで大切な心がまえなのだ。
「ICCによる安全保障で軍備オフ」という方策に、どうにもこうにも落ちつかない、と感じている方は、その感覚を大事にしてほしい。そして、ぜひぜひ、本書を何度も何度も読み返し、たとえば「ネズミ〜皇帝危機一髪」は声に出して読んでみる、しかもキャラクターごとに声色を変えて感情移入して読んでみる、などして、やはりどうしても納得できないのかどうか、じっくりじっくり、何度も何度も、自分の頭で考えてほしい。
持ちかけられた「おいしい話」やそれらしく聞こえる話。多くの人が感じているらしい常識。そういうものを疑い、検討してみる姿勢こそが、政治家や官僚たちのウソを見抜く力を育て、議会制民主政治をまっとうに機能させる基礎になる。過去の過ちを繰り返すのを防ぎ、違った未来を築いていく足がかりにも、なる。常識にとらわれていては、壁を超えることはむずかしいし、新たな飛躍も望めやしないのだから。
それにしても、ICC規程とその付属文書を読んでみて、胸の底からふつふつと湧いてくるのは、よくもまあこんなたいそうなものを作り上げた、十年ちょっと前には夢物語に過ぎなかった常設の国際刑事裁判所をよくぞ実現してくれたという、驚きと感謝の気持ちだ。まだまだ「侵略の罪」の定義や裁判所の実際の運営に関して、未解決の部分があるのは否定できない事実である。それでもやはり、ICCの実現に向けて傾注された有名無名の専門家たちの情熱と努力と執念に、心からの敬意を捧げたい。彼・彼女らが、せっかく芽吹かせたICCを、何としても育て上げ、実効的な戦争抑止力として活用していかねばと、強く思う。
そして何より。
ICC規程の中でも特に第5条から第8条までと、付属文書の「犯罪の要素」とを読んでいるときに、どうしても思いをはせずにはいられなかったのが、これまでの戦争で命や家族、人生を奪われてしまった、凄まじい数の人たちのことだ。その中には、私の祖父やそのさらに父祖たち世代が関わった戦争の被害者たちも、いる。
狂おしい嘆きと悲鳴が、世界のあちこちに、無念の色ではりついている。
ICCが、気の遠くなるほど多くの人命と人生の犠牲を踏まえて設立されたことを胸に刻み、戦禍の被害を受けた数え切れないほどの人びとの魂が安らかに眠れるよう、戦争を2度と繰り返さぬための努力を、続けなければならない......。
などと殊勝なことを書きつつも、太陽エネルギーを使い果たして、もうふらふら状態の私は、後のことはひとまず、読者の皆さまにお任せできたらなあ、と思う。
皆さま、どうか、本書の内容を最低でも2人の方に伝え、その2人の方にも同じように2人の方に伝えるようにと、お願いしてほしい。本書の読者を、ネズミ〜算式に増やし、せっかくできたICCについての議論をあちこちで巻き起こしてほしい。
私自身、実を言うと、国際法の専門家ではないので(言っちゃった!)、本書のあちこちに勘違いが潜んでいるやも知れぬ。だが、どうぞ、その勘違いを修正して乗り越えて、議論を深め、進めていってほしい。
申し訳ないと思いつつ、私は涼しい木陰で風力エネルギーをためながら、しばらく昼寝をすることにする。体力が復活する日まで、おやすみでござる! ちゃお!
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