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第1章 抑止力としてのICC〜ICCの傘の下へ移動せよ!/1.ICCって何やねん?

 本来ならここで、まず、国際法や国際人道法の歴史を一通り説明すべきかも知れない。
 だが、江戸っ子ではないがカルシウム不足でどうにも気の短い私は、まどろっこしい話が大の苦手だ。いきなりICC(国際刑事裁判所。以下、ICCと記す)の話に突入させていただく。
 ICC設立に至るまでの国際人道法などの流れは、【豆知識4】で後述するので、そちらをご覧いただきたい。

1.ICCって何やねん?

 まず、ICCとはどういうものか、おおざっぱに説明しよう。

 ICC(International Criminal Court)すなわち国際刑事裁判所は、国際連合が設立した独立機関の1つだ。
 所在地は、オランダのハーグ。2003年3月に運営が始まった。

 東京裁判などの臨時裁判所とは違い、常設の裁判所として、武力紛争時に行われた「ジェノサイドの罪」「人道に対する罪」「戦争犯罪」の実行者や共犯者、依頼者、教唆者、煽動者、上官などを、裁く。

 裁判権を行使できるのは、ICC規程(という条約)を批准した国の領土で問題の犯罪が行われた場合と、この条約の締約国の国籍者が問題の犯罪を行った場合が、基本。ただし、ICC規程発効前(2002年6月以前)の行為は、裁判できない。(下記【豆知識3】を参照されたし。)

 刑は、終身監禁刑と最長30年の有期監禁刑、そして罰金。
 有罪判決を受けた者の私財没収や、被害者への損害賠償を命じることも可能。

 ICC規程の批准国は、2006年6月末で100カ国。署名だけで批准待ちの国は43。計143の国がICCに賛同しているわけだ。

【豆知識1】条約の署名と批准
 署名は「この条約に参加するよ」という約束。
 批准は、その約束を果たすこと。
 日本の場合、条約の署名は政府が行い、政府が国会に批准を提案。それを国会が承認して、ようやく批准される。つまり、日本政府がICC規程の署名と国会提出手続を進めない限り、日本のICC規程批准は不可能というわけだ。
 いちおう、批准の準備をする、と言ってはいる日本政府だが、「国内法を整備してから」と言って、先送りの気配。国内法は批准後にも整備できるのに。やはり、宗主国のアメリカ様が署名を撤回しているのに気をつかっているのか、それとも……?

と、思いきや、こんな情報も!
どう展開するかは予断できませんので、「日米同盟に「ICC規程の精神・趣旨」の潜脱を許したら、あきまへんで〜!」もご参照ください。

【豆知識2】即刻批准のための法律案
(このコラムは、日本政府がICC規程批准の準備を進めていると言われる今、もう不要かなあとも思いますが、記念に残しておきます。)

 実際のところ、以下のような内容の、簡単な法律をつくるだけで、ICC規程を今すぐ批准するための国内法整備は完了すると思うのだが、いかがだろうか?

○国内裁判手続法などの整備が完了するまでの間は、「ICCの裁判権が及ぶ犯罪」(つまりICC規程が列挙した犯罪)に対する裁判権行使を、ICCに任せる。
○日本人が訴追された場合、日本国憲法に基づく適正手続保障の観点から、必要であれば日本国政府が弁護人をつけるなど、日本国政府は日本国籍者保護のため万全の手段をとる責任を負う。
○ICC検察官ならびにその補助するスタッフに、捜査上のあらゆる便宜を提供する措置をとる。
○他国籍者が日本国内で、ICCの裁判権が及ぶ犯罪を犯した場合、犯行者および責任者などの身柄確保は、警察組織による国際協力や外交手段を通じて行う。

 日本人が外国の裁判を受けねばならない場合は、今でも通常、あるわけだし、しかも、ICCの手続規則によれば、後述するように、日本の刑事訴訟手続よりも被告人に手厚い保護がある。裁判官の構成も、ジェンダー・バランスや地域バランスなどに考慮するなど、偏りがない。公正な裁判を受けるという日本人の権利も、まあ、万が一にも日本軍関係者が訴追されるような犯罪を犯すことはないと思うが、きっちり守られるので、心配ご無用。

【豆知識3】批准の時期とICCの裁判権
 ICC規程を批准していない国でも、ICC規程が発効した後(つまり2002年7月以降)の犯罪について、ICCの裁判権を受け入れる意思表示をすれば、ICCの裁判を利用できる。
 イラクもアメリカもICC規程を批准していないが、もしイラクの新政府がICCの裁判権を受け入れる意思表示をすれば、アメリカ兵がイラク侵略戦争で犯した罪についてブッシュ大統領(当時)の責任をICCで問うことも可能になる……としか、ICC規程の条文(第11条、特に「ただし書き」と、第12条第3項)は読めない気がする。だが、そうすると、「犯行時に適用されていない法律が、後から適用されてはならない」という刑法の一般原則に反してしまうようで、私の誤解なのかな、とも思えてしまう。まあ、どちらにせよ、ICCの威力を損なう話ではないのだが、ちょっと気になる。真相はいかに!?

◆参考◆ICC規程抜粋
第11条(時間的管轄)
1 国際刑事裁判所は、この規程の発効後に行われた犯罪についてのみ、裁判権を有する。
2 この規程の発効後に締約国となる国に関して、国際刑事裁判所の裁判権は、その国にとってこの規程が効力を生じた後に行われた犯罪についてのみ行使できる。ただし、その国が第12条(裁判権行使の前提条件)第3項に基づく宣言をしている場合は、この限りではない。
第12条(裁判権行使の前提条件)
1 この規程の締約国となった国は、第5条(国際刑事裁判所の裁判権が及ぶ犯罪)が言及<~refer to>する犯罪に関する国際刑事裁判所の裁判権を受け入れる。
2 第13条(裁判権の行使)の(a)または(c)の場合で、以下の国のうち1つまたは複数が、この規程の締約国であるか、あるいは本条第3項に従って国際刑事裁判所の裁判権を受け入れるかしているときは、国際刑事裁判所は裁判権を行使できる。
(a) 問題となっている行為が領域内で行われた国。または、犯罪が船舶内もしくは航空機内で行われた場合の、その船舶または航空機の登録国
(b) 犯罪で告発<~accuse>された者の国籍国
3 この規程の締約国以外の国による(国際刑事裁判所の裁判権の)受け入れが本条第2項の下で求め<~require>られるなら、その国は、書記官に提出する宣言によって、問題となっている犯罪について国際刑事裁判所の裁判権の行使を受け入れることができる。裁判権の行使を受け入れた国は、第9部(国際協力と司法共助<~judicial assistance>)の規定に従って、遅滞も例外もなく、国際刑事裁判所に協力しなければならない。

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