第1章 抑止力としてのICC〜ICCの傘の下へ移動せよ!/【豆知識4】国際人道法の流れ
国民あげての総力戦や無差別爆撃、正規兵同士の戦闘とは違った形態で進められるゲリラ戦、そして、正当化されうる軍事目的をはるかに超える被害をもたらす、さまざまな大量破壊兵器の出現、文民犠牲者の爆発的増大……。
19世紀以降、戦争のもたらす被害は拡大の一途をたどり、その抑止が、全人類にとっての深刻かつ重大な課題として浮上してきた。この課題を解決すべく発展してきたのが、国際人道法だ。
ICC設立につながった、国際人道法の歴史を語るうえで欠かせない条約と、戦争裁判を、あげてみよう。
1907年 ハーグ陸戦条約
1946年 ニュルンベルグ裁判、東京裁判
1948年 ジェノサイド条約
1949年 ジュネーヴ諸条約
1977年 ジュネーヴ諸条約の追加議定書
1993年 旧ユーゴスラビア国際刑事法廷
1994年 ルワンダ国際刑事法廷
1998年 ICC規程(国際刑事裁判所規程)
▼「ハーグ陸戦条約(陸戦の法規慣習に関する条約)」は、捕虜の待遇や占領国の占領行政上の義務などを定めた他、害敵手段の基本原則である「軍事目標主義」を掲げるなど(第25条、第27条)して、害敵手段を制限した。その源流には、
「戦争において国家が達成しようと努めるべき唯一の正当な目的は、敵の軍事力を弱めること」であり、
「そのためにはできるだけ多数の者を戦闘外に置けば十分」であり、
「すでに戦闘外に置かれた者の苦痛を無益に増大したり、その死を必然的にしたりするような兵器の使用は、正当な目的の範囲を超え」「人道に反する」
としたサンクト・ペテルブルク宣言(1868年12月。「蝦夷島共和国」がフランス政府に承認されるちょっと前、のことだそうな)がある。
この「ハーグ陸戦条約」は、第2次大戦の敗戦国を裁いたニュルンベルグ裁判で、1939年までに慣習法化したことが認められた。現在では、あらゆる国を拘束する慣習法として確立している、と言えよう。
▼ニュルンベルグ裁判、東京裁判では、「人道に対する罪」「平和に対する罪」という概念が登場した。また、「ジェノサイド条約」は、ナチスによるホロコーストのような悲劇を繰り返さぬために、ジェノサイドを禁止(ジェノサイドについては、本章「3.ICCが裁く犯罪リスト」を参照)。
▼1949年のジュネーヴ諸条約は、
「戦地にある軍隊の傷病者の状態の改善に関する条約」(第1条約)
「海上にある軍隊の傷病と難船者の状態の改善に関する条約」(第2条約)
「捕虜の待遇に関する条約」(第3条約)
「戦時における文民の保護に関する条約」(第4条約)
からなる。第4条約の「文民」は、主として「締約国にとっての外国籍者」を指す。内戦(非国際武力紛争)に適用される規則が、ここで登場した。
このジュネーブ諸条約は、2005年2月末現在、192カ国が批准や加入などの形で遵守を約束している。ちなみに191は国連加盟国の数と同じ。
▼「ジュネーヴ諸条約の追加議定書」は、国際武力紛争(植民地支配や外国の占領、あるいは人種差別体制に対して闘う武力紛争を含む)についての「第1追加議定書」と、非国際武力紛争についての「第2追加議定書」からなる。
第2次大戦後の植民地独立戦争や、ベトナム戦争で新しく噴出した被害、そして何より、第1次大戦以降爆発的勢いで増大してきた文民被害を抑えるために、文民や捕虜、傷病者の保護を拡大・強化しつつ、「軍事目標と民用物の区別原則」を徹底。「戦闘行為(敵対行為)(←【豆知識7】参照)を差し控える」のを条件に、正規軍か不正規軍かなどにかかわりなく、すべての傷病者、難船者が「第1追加議定書」でカバーされることになった。
なお、「第1追加議定書」を中国、北朝鮮、ロシアは批准しているが、アメリカ、イギリス、イスラエル、フランスは批准していない。しかし、批准・加入のペースから見て「第1追加議定書」はすでに慣習法になっている、それどころか、一般国際法の地位に近づいている、との見解もある(Abi-Saab)。実際、アメリカとイスラエルでさえ、「第1追加議定書」中のすべての慣習規則を尊重することを、正式に表明しているほどだ(『国際人道法』藤田久一、p245,248,271-272)。
▼第2次大戦後、ニュルンベルグ裁判や東京裁判のような臨時の裁判所ではない、常設の国際刑事裁判所を創ろう、という動きがあった。しかし、東西冷戦の発生で、とん挫。冷戦終了後、常設裁判所を求める声が再び高まり、ユーゴ内戦やルワンダ内戦の残虐な現実が、設立に向けた動きを加速。ついにICC規程が生まれた。
ICC規程は、「人道の罪」と「ジェノサイドの罪」、「ジュネーブ諸条約」とその「追加議定書」の重大な違反、国際慣習法の重大な違反について、裁判権を持つ。ICCはまさに、20世紀の戦争がもたらした惨禍を2度と繰り返さぬためにと編み出された国際人道法の、ひとつの集大成なのだ。
批准国(2006年6月末現在)
ジュネーヴ諸条約 192カ国(たぶん)
ジュネーヴ条約第1追加議定書 162カ国(おそらく)
ジュネーヴ条約第2追加議定書 157カ国(きっと)
ICC規程 100カ国(署名済みで批准待ち43カ国)
| 固定リンク
« 第1章 抑止力としてのICC〜ICCの傘の下へ移動せよ!/2.ICCのすごいところ! | トップページ | 第1章 抑止力としてのICC〜ICCの傘の下へ移動せよ!/【豆知識5】人道法に実効性を持たせるために何をする? »
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- おわりに 〜疑いと熟慮を!〜(2006.07.15)
- 第3章 外国籍者、在外邦人と戦争/2.外国籍者保護のための条約と在外邦人保護(3)(2006.07.15)
- 第3章 外国籍者、在外邦人と戦争/2.外国籍者保護のための条約と在外邦人保護(2)(2006.07.15)
- 第3章 外国籍者、在外邦人と戦争/2.外国籍者保護のための条約と在外邦人保護(1)(2006.07.15)
- 第3章 外国籍者、在外邦人と戦争/1.「国民保護法」の憂鬱(2006.07.15)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント