第1章 抑止力としてのICC〜ICCの傘の下へ移動せよ!/【豆知識8】侵略の罪
ICCが裁く「侵略の罪」の内容は、まだ確定されていない。
だが、「侵略の定義に関する決議」なるものが、国連総会で1974年に採択されている。参考にあげておこう。
(第3条)
以下の行為はいずれも、宣戦布告の有無に関わりなく、第2条の条項に従うことを条件として、侵略行為とする。
(a) ある国家の武装兵力による、他国の領域に対する侵入または攻撃、または、一時的なものであってもこのような侵入または攻撃の結果もたらされた軍事占領、または、他国の領域の全部または一部の武力行使による併合
(b) ある国家の武装兵力による、他国の領域に対する砲爆撃、またはある国家による他国の領域に対する兵器の使用
(c) ある国家の武装兵力による、他国の港または沿岸の封鎖
(d) ある国家の武装兵力による、他国の陸軍、海軍、空軍、船隊または航空隊に対する攻撃
(e) 受入国との合意に基づいてその国の領域内にある武装兵力の、その合意で定められている条件に反する使用、または、その合意終了後の受入国領域内にでの駐留継続
(f) 他国の使用に提供した自国の領域を、その他国が第三国に対する侵略行為を犯すために使用することを許容する国家の行為
(g) 上記の諸行為に匹敵する重大性を持つ武力行為を他国に対して実行する武装部隊、グループ、不正規兵または傭兵の国家による派遣、または国家のための派遣、または、このような行為に対する国家の実質的関与
(第4条)
前条に列挙された行為は網羅的なものではなく、安全保障理事会は、その他の行為が憲章の条項により侵略を構成すると決定できる。
なお、この「侵略の罪」については、たとえICC規程にもとづいて定義されたとしても、具体的な事件が侵略にあたるかどうかは、結局、国連の安全保障理事会が決定することになるので、ICCの力が本当に発揮できるのか疑わしい、との懸念が表明されている(国連憲章第39条とICC規程第5条第2項。「シリーズ 国際人権・随想3 国際刑事裁判所」安藤仁介、『GLOBE 2003秋』)。
たしかに、自分の国の行動に対する非難決議案が提出されたときに拒否権を行使できる「常任理事国システム」がある限り、「侵略の罪」をめぐるICCの活動には困難が予想される。
でもまあ、ICCのような斬新な試みが、最初からすべて問題なくうまく機能すると期待するのもなんではある。
こうした懸念を克服する方策を考えながら、地道にしっかり、ICCを育てるために力を尽くすのが、きっと正しい道だろう。「侵略の罪」がどうであれ、人道被害のかなりの部分は、他の条項で十分に抑止できるのだから。
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