第1章 抑止力としてのICC〜ICCの傘の下へ移動せよ!/【豆知識7】戦闘行為と敵対行為
本書で言う「戦闘行為(敵対行為)」は、英文では「hostilities」。防衛庁ウェブサイトの訳文をはじめ、国際法の専門書の中でも「敵対行為」と訳されることが多いようだ。
しかし、「敵対行為」と言うと、デモや口頭での抗議、ビラまきなど平和的な抵抗、平和的レジスタンスも含まれるような響きがある。そして、
「紛争当事者の軍隊」の構成員(第3条約第33条の衛生要員と宗教要員を除く)は「戦闘員」であり、すなわち、「敵対行為(hostilities)」に直接参加する権利がある(「第1追加議定書」第43条第2項)。
などと言われると、武力によらない平和的抵抗運動も、「戦闘員」の専売特許で、「文民」にはできないように聞こえてしまう。
だが、そんなことはなかろう。
だって、もし「組織的抵抗運動体」の構成員が平和的レジスタンスを行うには「文民」でない状態(=「戦闘員」である状態)でなければならないとしたら、つまり(a) 部下について責任を負う1人の者が指揮している、(b) 遠方から認識できる識別標章を付けている、(c) 公然と武器を携行している、(d) 戦争の法規と慣習に従って作戦行動をしている、という4つの条件を満たす状態でなければならないとしたら、どうなるか? ビラ作りやビラまきはもちろん、占領軍の無理難題を非暴力的に拒絶することや、不服従を貫くことすら、この4条件を満たしつつ行わねばならないことになる。しかも、その最中は、敵から「戦闘員」として射撃される危険を負わねばならないのだ。これは、ちょっとナンセンスだろう。
そこで本書では、「hostilities」を「戦闘行為(敵対行為)」と訳すことにした。「hostilities」は必ずしも銃のドンパチのような「戦闘行為」に限られないのかも知れないが、「hostilities」に平和的レジスタンスは含まれない、というニュアンスを出すためだ。
なお、国際人道法関係の解説が詳しいICRC(国際赤十字委員会)の英語版ウェブサイトに「Conduct of hostilities」というタイトルのセクションがあり、そのタイトルは「戦闘で敵を殺傷する行為」と訳すべきものと思える。
また、手元にあるちょっぴり古めの『LONGMAN DICTIONARY OF CONTEMPORARY ENGLISH』)では、「hostilities」は、「acts of fighting in war」となっている。「fight」をどう解釈するにもよるだろうが、本書の訳で、ニュアンス的には問題あるまい。
てなことを書いてみた後、こんなことがわかりましたっ!!!
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