第1章 抑止力としてのICC〜ICCの傘の下へ移動せよ!/【豆知識5】人道法に実効性を持たせるために何をする?
このように、戦争に関する国際法は、20世紀はじめからどんどん生まれていくのだが、違反も絶えなかった。
たとえば、昭和天皇は、当時の首相であった東条英機に「開戦の詔勅」から「国際法を守って戦え」との語句が削除された理由を尋ねたところ、「嘘は書けません」との、とっても正直な回答を受け、黙認したのだとか。
考えてみれば、すでにそれ以前に日本政府は、
「もっとも重要なのは直接に住民を空襲し、敵に極めて大きな恐怖をもたらし、敵の意志を打ち砕くことである」
と「軍事目標主義」(「ハーグ陸戦条約」1912年に日本も批准)の蹂躙を明記した「航空部隊使用法」を制定し、5年にわたり重慶への無差別爆撃を展開していたほか、「性奴隷」制度の確立と運営や住民虐殺など、各地で国際法違反を国策として行っていたのだから、東条英機のこの馬鹿正直さが、別の方向に向いてくれていたらと思わないこともないのだが、歴史に「もしも」はありえんしねえ……。
さて、昭和天皇の黙認後。日本軍は、宣戦布告なき対イギリス開戦や、「日タイ友好和親条約」違反など、さらにますます、国際法違反を積み重ねていった。そして、日本軍の最高責任者、昭和天皇は、アメリカ軍の政治的思惑から、東京裁判を免れた。
ちなみに、1937年から1945年までに日本国が推進した性奴隷制度(従軍慰安婦制度)は、「ハーグ陸戦条約」(1907年)、「婦人児童売買禁止条約」(1921年)、「ジュネーブ条約」(1929年)、「ILO強制労働条約」(1930年)、慣習法化していた「奴隷条約」(1926年)に違反していたとの指摘がある(『Q&A 女性国際戦犯法廷「慰安婦」制度をどう裁いたか』VAWW-NETジャパン編)。倫理的に問題があるだけでなく、あまりにも明白な国際法違反だったわけである。
それから半世紀あまり。21世紀を迎えた今、時代は変わったか?
残念ながら、「否」と言わざるをえない。アフガン・イラク侵略戦争での、アメリカ軍の住民虐殺や捕虜虐待、劣化ウラン弾の使用(どれもジュネーブ条約の違反行為だ)などを見れば、結局、「勝てば官軍」「法はあるけど違反はし放題」の時代が、今も続いていると言うしかない。ICC規程の効力が及ばないところでは。
戦争被害の抑止と戦争抑止に向けた20世紀後半以降の動きを無に帰させぬためにも、世界を19世紀から20世紀前半の弱肉強食の時代に先祖がえりさせないためにも、
「19世紀にカエル軍団」
の進軍を、止めねばならない。
そのためには、やはり、戦争犯罪などを公正に裁き、責任者たちにきっとり責任をとらせ、国際人道法に実効性を持たせる仕組みが必要だ。
そして、その仕組みであるICCは、すでに設立されているのである。さあ、どうする!?
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