注釈「不法滞在、どう対応」/【逆転の提言】「労働」資格!
2008.8.19.20:00ころ
前回の記事で批判した、朝日新聞の特集、
【国を開く 選択のとき】不法滞在 どう対応(朝日新聞大阪13版、2008.8.17)。
実は、悪い内容ばかりではありません。そこで、以下に記事を転載し、内容を分析してみます。
制度は 指紋採取でチェック強める
韓国・ソウルで今年4月、手の指紋を変える手術をしたとして、病院関係者が医療法違反容疑で摘発された。カラオケボックスなどで皮膚の一部を切除し、縫い合わせる手術などを繰り返していたという。依頼していたのは、「指紋を変えれば、日本に入れる」と考えた人たちだ。
昨年11月から日本のすべての国際空港や港で、入国しようとする16歳以上の外国人(特別永住者を除く)から両手人差し指の指紋を採る制度が始まった。
これまでは、改名して旅券を新たに作ったり、偽造旅券で入国しようとしたりする人を見分けるのは入国審査官の「カン」が頼りだった。新制度では、過去に強制退去させられた人たちのブラックリストと合致すれば、警報がなる。「効果は予想以上」(法務省幹部)で、今年6月までの7カ月間で515人が入国を拒否された。そのほとんどが、入国禁止期間に入国しようとした人たちだった。
そのうえ、昨年10月からは、企業に外国人を雇った場合に報告するよう義務づける制度も始まった。
さらに法務省は、日本に中長期に滞在する外国人に顔写真と名前、在留資格、期限などの情報が記録されたICカードを私、携帯を義務づける入管法改正案を来年の通常国会に提出する予定だ。
現状では、外国人は来日から90日以内に区市町村を訪れ、「外国人登録証明書」の発給を受ける。入国管理局への届け出とは別で不法滞在者でも証明書は発行され、知らずに企業が雇う場合もある。
しかし、新制度では法務省がICカードの発行も担うため、不法滞在者には発給されない。同省は「不法な外国人がみつけやすくなる一方で、適法な外国人にとっては、届け出などが一本化され、便利になるはずだ」と説明する。
半面、不法滞在者は銀行口座の開設などに必要な証明手段がなくなり、公立学校への就学など行政サービスの枠組みからも外れることになる。
社会は 治安悪化に不安、減る容認派
日本に不法滞在している外国人は、1月現在の推計で約17万4千人。このうち、不法な形で入国したのは約2万4千人、短期ビザなどで入ったまま不法残留している外国人が14万9785人とされる。
不法残留のピークは、93年の29万8646人だった。80年代後半のバブル景気のなかで「汚い・危険・きつい」の3K職場から日本人が消え、不法滞在の外国人労働者がそうした仕事を担った。
その数も94年から15年連続で減る。バブル崩壊後、治安回復の観点から不法滞在者を減らす対策が重視されるようになった。03年12月には、不法滞在者と暴力団など犯罪組織が結びついて治安を悪化させているとし、「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」に削減対策が盛り込まれた。政府は来年1月事典での不法滞在者を約12万5千人まで減らす計画を進めている。
バブル景気のころ、不法滞在者を雇っていたという埼玉県内の元工場長は「日本人に務まらない重労働でも、パキスタンなどから来た若者はよく働いてくれた。当時は摘発も厳しくはなく、地域でも半ば公認されていた」という。
89年に来日し、06年に不法就労で摘発された中国人男性(46)も「家に警察が来たことはあったが、捕まることはなかった。外国人登録証を持っていれば、堂々と暮らしていられた」と言った。
内閣府世論調査では「不法就労者をどう考えるか」の質問に、90年は32%の「よくない」が、04年は71%に増えた。04年の「よくない」の理由の73%を占めたのは「治安、風紀が悪くなるから」(複数回答)だった。逆に90年に55%だった「やむを得ない」は、25%に減った。
全統一労働組合の鳥井一平書記長は「政府は、建前では不法だと言いながら、最底辺で産業を支えさせてきた。不法就労者がいるからこそ、成り立つ社会をつくってきたのは誰なのか」と指摘する。
当事者は 合法化される仕組みを切望
「日本にいられるのか不安で高校受験の勉強にも集中できない」。東京都足立区に住むインド国籍のサニー・ファビオ君(15)は、日本生まれの中学3年生。少年野球チームのレギュラーで、学級委員長も務めたことがある。
良心は93年、観光ビザでインドから入国。父親のアマルさん(44)は元建設作業員。税金を納め、子どもを公立学校に通わせ、地域の活動にも積極的に参加してきた。
03年7月、「子には不安的な生活はさせたくない」と、入国管理局に自主的に出頭。在留特別許可(在特)を求めた。しかし、3年後、「不許可」となり、強制退去処分を受け、最高裁に上告中だ。
在特は、強制退去処分になった外国人に法相の裁量で特別に在留を認める措置。「人道的な配慮の必要性」などが要件だが、基準は不明確だ。「子が中学生以上」との解釈もあるが、ファビオ君は例外になった。結論までの期間も数カ月〜数年と様々だ。
90年代までは日本人と結婚した場合を除き、ほとんど認められてこなかった。だが、03年以降は許可が増え、06年は9360人に上った。
法務省は「人道上配慮すべき人が多かっただけ」と説明するが、不法滞在者半減のため、「優良」とされる一部の外国人については在特を与える政策が進んでいる、と指摘する専門家は多い。
欧米には、在留期間などの条件により一斉に定住を認める「アムネスティ政策」という制度がある。在特取得に取り組む支援団体「APSF」の吉成勝男相談役も「在特の基準を明確化し、生活基盤を形成した外国人を公平に合法化するプログラムに育てていくべきだ」と訴える。
アマルさんは訴える。「子は日本語しか話せず、心も日本人。見も知らぬ祖国ではなく、日本で暮らしたい」 (市川美亜子、山根祐作)
昨年11月に「テロ対策」名目で導入された「指紋採取システム」が、実は退去強制者の入国拒否に本当の目的があるのではないか。
もしそうなら、目的に比して、採用された手段がプライバシー保護などの問題であまりに苛烈すぎるものではないか、予算的にもバランスがとれていないのではないか。
何しろ、ブラックリストに指紋情報が載っていないテロリストの入国には、まったく無力なシステムなのだから……。
……そんな疑問が今もあるのですが、この記事では、同システムが「退去強制者の入国拒否」に役立っている旨、法務省幹部の声を通して語られています。
しかし、実際はどうなのでしょうか。
記事では、「改名して旅券を新たに作ったり、偽造旅券で入国しようとしたりする人」が、同システム導入から「今年6月までの7カ月間で515人」、「入国を拒否された」とあり、それが予想以上の効果だと評価されています。
本当に効果が高かったかどうかは、前年度までに同様の理由で入国を拒否された人の数と比較すれば容易にわかるはずですが、残念ながら、記事中で述べられている入国拒否の「理由」がはっきりしません。
入国拒否の理由にはとくにこだわらず、「上陸口頭審理」で「退去命令」を受けた者の数が「7カ月間で515人」だと考えれば、法務省のサイトにある最新のデータ(平成19年版「出入国管理」)では、「上陸口頭審理」で「退去命令」を受けた者の数は、平成18年では1,706人だそうなので、これが上記数字に対応しているとすれば、たいして効果は上がっていないと見ることになります。と言うか、さすがにこの数字は比較対象ではないだろうと推測できます。
そこで、記事中で挙げられている人数は、旅券偽造を理由とする上陸拒否者に限ったものだと仮定して、比較の対象を探してみると、法務省のサイトには見当たりません。
でも、どこかで見たなあ、と探していると、旅券偽造に関する数字は、「入管法改定案に関する国会会議録」にありました。
2006年5月9日、木庭健太郎議員(公明党:公式サイト)による質疑に対して、三浦入管局長(当時)が次の趣旨の説明をしています。
上陸審査時に発見された偽変造旅券の数は、平成15年(2003年)は1561件、平成16年(2004年)は1011件、平成17年(2005年)は834件というふうに推移しており、平成15年以降減少傾向にある、と。
これと比べると、たしかに効果は上がっているようではありますが、何だか微妙です。
なぜなら、「7カ月間で515人」を12カ月で計算すると、約883件(515×12÷7)になりますので。生体情報採取システム導入前の2005年とたいして変わらんやんか、と。
まあ、素人でも使えるシステムという点では優れているのかも知れませんが、
この比較が正しいなら、はたしてこれほど大規模なシステムをくみ上げ、年間70億円とも言われる予算を使い、しかも来日する外国人に対する差別的でかつ差別扇動的なシステムをつくってまで求める効果であったのか、激しく疑問に思います。
【関連記事】朝日新聞と「外国人犯罪」報道。オバマとブッシュと茶化しと差別(2008.8.17)
上述の特集では、「不法滞在者」が日本の産業の下支えをしてきたことを紹介したうえで、「不法滞在者」に対する日本政府の姿勢の変化や世論の変化について、例を挙げて示しているほか、導入予定のIC在留カードなどが「不法滞在者」を行政サービスから排除してしまうという問題点も、指摘してくれています。また、「アムネスティ」(団体の名前ではありません)の紹介もあります。
このあたり、非常に嬉しい内容です。
「不法滞在者」が外国人単純労働者として働くことになる背景に、国際的な経済格差、そして日本人が「3K」職場を忌避する傾向があるのは、ご承知のとおりです。
そしてこのような傾向が、日本経済の没落が進まない限りはなくならないだろうことも、想像はたやすいでしょう。
そこで、当ブログとしては、
そして、だからこそ、どんな移民受入政策をとったとしても、そこからこぼれ落ちてしまう「実質上の移民」(ちなみに上記報告書では、「移民」の定義として、「通常の居住地以外の国に移動し少なくとも12カ月間当該国に居住する人のこと(長期の移民)」をいう、としています。これは1997年の国連統計委員会に提出された国連事務総長報告にある定義だそうです)を人として処遇するための最低条件として、「すべての移住労働者とその家族の権利保護に関する条約」(在留資格に関わりなく人としてのさまざまな権利を保障する条約)をこそ、まず批准すべきだと思うのです。(お前が言うか、自民党。蹴倒しますぞ、うさキック!(追記アリ)、2008.8.13)
と主張したわけですが、『外国籍住民との共生にむけて NGOからの政策提言』(移住労働者と連帯する全国ネットワーク編)に、目をみはる提言が、書かれていました。引用してみます。
5 入管法に「労働」の在留資格を以下のように新設する。
1)在留資格「労働」の要件は次の通りとする。
a 国内の事業所との雇用契約を結んだ者には、「労働」ビザを発給する。
b 「労働」ビザ」は有期限で、更新できる。
c 国内の事業所で現に雇用されている者には「労働」の在留資格を認める。
d 「労働」の在留資格で在留する者は、転職・移動の自由を保障される。
2)現行入管法における「教育」「技術」「人文知識・国際業務」「企業内転勤」「技能」の在留資格は、「労働」に統合し、廃止する。
3)家事労働に雇用されている者にも「労働」の在留資格を認める。
4)日本政府は、移住労働者権利条約に則り、責任ある機関を設置して、求人・求職の斡旋、準備教育、入国後のフォロー、労働法の完全適用等の責任を持つ。(第II部第3章 働く権利・働く者の権利)
自民党PTのさまざまな提言が「上からの提言」だとすれば、これはまさにNGOならではの「下からの提言」です。
たとえば、おぞましき長勢甚遠が座長を務める、「外国人労働者問題PT」の提言では、「研修実習制度を廃止し、国内で必要な労働力確保に資することを目的とする「外国人労働者短期就労制度」の創設」なんてことが提言されています。
その概略を抜き書きすると、在留期間を最長3年とする「短期就労資格」を新設し、「短期就労資格による再度の入国は認めない」。受入対象者や受入企業について業種・職種・技能能力などの制限はナシ、受入団体を許可制として受入枠を定める、受入団体と受入企業が一体となって受入労働者の入国、雇用管理、保護等の義務を果たす仕組みとする。そしてもちろん、労働法規の遵守などという、はたして実効性があるんかいな、と思われるキレイごとも書かれています。(しかし、「3年で帰国」の建前どおりにいかないケースが出てくるのは先進諸国の歴史を見る限り火を見るより明らかですから、そこへの手当がない限り、このような提言は「一時しのぎのめくらまし」に過ぎないと言えるでしょう。)
この「外国人労働者問題PT」の提言はもちろん、自民党国家戦略本部の「日本型移民国家への道プロジェクト・チーム(PT)」の報告書も、労働者をどの分野で受け入れるかを、まず国家政策として決定することが、当然の前提とされています。それなりに合理性がある判断かなあ、とも思います。
ところが、上記の移住連による提言では、外国人労働者を雇用するかどうかは企業に任せ、雇用契約締結によって在留資格が与えられることになります。
そして、外国人労働者に関して生じうる労働問題やブローカーに関する問題などについては、労働法制の内容実現を厳しく徹底することで弊害を除いていこう、という方向性が打ち出されています。政府による管理がまず最初に来る自民党から出て来た案とは、まったく逆の発想です。
しかも、受け入れた外国人「労働」者の「職業選択の自由・移転の自由」を制限しないので、国内に「二級市民」をつくりださずにすむという点でも優れています。
発想にあたっては、現在の「日系人とその家族」に与えられている資格を参考にしたものかも知れません。
これはまさに「単純労働者」の受入を可能にする提言ですから、日本人の若者との職場の取り合いを危惧する向きもあるでしょう。
ただ、従来の「不法滞在者」の就労先を考えるなら、日本語の十分にできない来日したての外国人が就労できる業種は限られるでしょうから、それほど大きな軋轢は生じないのかなあと思います。
この提言が実現された場合に、その成果を真に上げるためには、労働法システムの内容実現を厳しく徹底することが不可欠の前提となります。
それは同時に、日本人労働者の労働条件・労働環境改善も達成することにつながるでしょう。その意味で、移住連の提言も、やはりそれなりに合理性のある方向、希望の持てる方向を向いていると思います。
そこでは、労働行政と労働組合運動との連携なんてものも必要になってくるし、重要性を増していくでしょう。それはまさに、従来型の日本社会のあり方を変革していくことにもつながりえます。政府の求める「高度人材」を呼び込む力も強化されていくでしょう。
ではありますが。
結局、厚生労働省の不甲斐なさ(とそれを許す政府、政治家たち)が、強力無比な最大の障壁となって立ちふさがりそうな悪寒がします。
とまあ、ちょっとビックリさせられた提言を紹介して、その実現可能性に「?」を付けたところで、本日はおしまいといたします。
まあ、この「?」も、政権交代があれば、
ひょっとするとひょっとする、のではありますけどね(^_-)☆。
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◆自民PT「日本型移民国家」を超えてゆけ、真夏の夜の夢!(2008.08.14)
下記2つの請願署名へのご協力、お願いします。集約期限は今月末です。
よろしくお願いいたしますm(_ _)m。
◆日本版US-Visitシステムの廃止を要望する国会請願署名、電子署名(国際結婚を考える会、IST請願の会)
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【関連記事】
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