2008.8.14.22:00ころ
さあ、前回の記事(追記があります。未読の方は、どうぞご覧ください)で予告したとおり、今回は、自民党国家戦略本部の「日本型移民国家への道プロジェクト・チーム(PT)」の報告書に見る自民党の「トンデモっぷり」をご堪能いただこうと思います。
採り上げるのは、冒頭の「I 政策の理念」です。
まずは、「1.移民立国で日本の活性化を図る」から。
ここでは、世界のどの国も体験したことのない高齢化社会に日本が突入したこと、同時に、未体験の人口減少時代に入ったことを挙げて、
○50年後の日本の人口は3分の2に落ち込み、9000万人を下回るという政府推計がある。
そのとおりだとすると、国の様相は一変しているはずである。過疎が進む日本の原風景はどのような姿をさらしているのだろうか。社会の活力は枯渇していないだろうか。
と、危機感を表明します。
たしかに、少子高齢化がこのまま進展してしかも何の対策もとられないとしたら、やがて、今の若者や中年たちが高齢者となったとき、その時代の若者たちの負担を減らすために自らの命を絶つというあの「姥捨て山」の伝統が、日本の風景が変わりゆく中で甦っているかも知れないなあ、なんて思います。私も他人事ではないので、何か自衛策をとらねばならんのかも(;<>;)。
そして、今後現れていくであろう「世代間の人口比率」を考えるなら、人口減少に合わせて「小さな日本か、大きな日本か」どちらかを選択するのとは別次元での政策が、絶対に必要になってくる、その政策の1つとして「移民受入」もありかも知れない、そんな思いにも駆られます。
しかし、続く次のようなフレーズを読んで、あなたはどう思われるでしょうか?
○一国の人口推移は、人の出生、死亡、国際人口移動の3つの要因によって決まる。
人口減少問題への取り組みとして、政府は出生率を高めるため保育サービスの充実などに全力を挙げている。
いったいどこの政府の話だろうと、キョロ(。。ヘ) (・・ ?) ( ゜゜)ゝキョロ。
「まさか全力挙げてこのありさま?? そんなだったら、政府なんてイラネ!」
などと毒づいていると、こんな切り返しがやってきます。
しかし、人口問題の専門家によると、少子化対策の効果が現れるとしても、それは遠い将来の話ということである。
したがって、日本の人口危機を救う効果的な治療法は、海外からの移民の受け入れ以外にないのである。日本の生きる道は、世界に通用する国際国家として自らを世界に開き、移民の受け入れにより日本の活性化を図る「移民立国」への転換である。
まあ、自分たちの失敗を対外的に認めるというのは、独裁国家の首脳などにとっては、なかなか難しいことだと思います。金正日主席総書記は、拉致、認めましたけど。自民党のこのPTには、少子化対策の失敗を認める勇気はなかったのだと、私は解釈しておきます。
ともあれ、「移民受け入れ」を目指す理由が、ここまでで語られました。
では、そのために何が必要か。その要点が語られます。
○新しい国づくりのためには、適正な移民受け入れを進める「移民政策」を打ち出す必要がある。
国民のコンセンサスも不可欠だ。何より求められるのは、移民開国への国民の決意と覚悟がいることである。外国人を移民として迎える以上、彼らが安心して働くことができる職場を用意しなければならない。移民ニーズに対応した社会経済制度の改革が必要である。
たしかに、「移民受け入れ」を進めるとすれば、そのとおりでしょう。異議なし、です。
ところが、
○日本が移民開国を目指すのであれば、日本民族と他の民族がお互いの立場を尊重し合って生きる社会、すなわち「多民族共生社会」を作るという日本人の覚悟が求められる。
日本人に求められるのは、自らの民族的アイデンティティを確認し、かつ異なる民族すべてを対等の存在と認める心構えを持つことである。外国人にとって魅力ある社会は、日本人にとっても夢と希望のある社会であらねばならない。そうした新しいグローバル社会を創造しなければならないのである。
「日本民族」ってPTさん、アイヌや琉球、朝鮮系の人たちなんかは無きものにするってわけですかあ。しかも、「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が採択された、そのわずか2週間後の日付の「報告書」だというのに!
これについては、
『幻想としての人種/民族/国民』(ましこ・ひでのり、三元社)
をどうぞ。
【参考ブログ】新刊『幻想としての人種/民族/国民』(ましこ・ひでのり,三元社) 2【追記あり】(タカマサのきまぐれ時評2)
【関連記事】
◆虚構の上に立ついやしの「極右」か、現実の上に立つ節度ある「極右」か(2006.11.19)
◆多みんぞくニホン、ナチス、自由民権運動(2007.3.3)
まあ、ツッコミを入れたくなる悪い話ばかりではありません。続いた下記の部分は、おもしろい発想かなあ、と思います。
○日本型移民政策を提唱する。
ここで「日本型」と言うのは、人材を「育てる」姿勢を基本にする、日本独自の「育成型移民政策」であることを強調するためである。
意欲のある外国人材を、各産業分野を支える技能者・職人などに育成し、日本社会を共に支え、地域社会に根を下ろしてもらうようにするものである。
移民に対する手厚い教育を施し、日本人と良好な関係を築く「多文化共生社会」の創造こそが、日本型移民政策の核心である。国民が懸念する治安の悪化を招くことのない外国人受け入れ制度とするためにも、「育成型移民政策」をキーワードに、日本語・日本文化を基本においた社会統合・多文化共生政策の実施が重要となる。
「国民が懸念する治安の悪化」なんてことを心配せねばならなくなったのは、他ならぬ自民党の政策によるところが大きいこと、火を見るより明らかなんですけど。
【関連記事】【超お薦め!】『犯罪不安社会』を読んで、明るい2007年へ!(2006.12.25)
それに、「日本語・日本文化を基本においた社会統合・多文化共生政策」というのも、日本語の難しさ(漢字の読みの複雑さ)を考えるなら、2世代、3世代をかけて初めて成果が上がるものではないでしょうか。
まずは、行政サービスの多言語化や、小中学校でも多言語の教育、多言語による教育などを実施していくべきだと思います。「家族統合の権利保障」を謳うのなら、是非とも。
上で引用したように、「日本が移民開国を目指すのであれば、日本民族と他の民族がお互いの立場を尊重し合って生きる社会、すなわち「多民族共生社会」を作るという日本人の覚悟が求められる。/日本人に求められるのは、自らの民族的アイデンティティを確認し、かつ異なる民族すべてを対等の存在と認める心構えを持つことである。」なんてのたまうのなら、なおのこと。
ありゃりゃ、ツッコミ入れてしまった(-_-;)。
気を取り直して、読み進めましょう。
PTの美しき言葉は、まだまだ続きます。
○日本の文化と伝統を世界に開放し、日本列島に住む様々な人間が切磋琢磨することで新しい価値を創造する「多文化社会」の構築も課題となる。
そして、高い志を持つ世界の若者がこぞって移住したいと憧れる国、人道支援・国際貢献のための移民受け入れにも力を入れて、世界から評価される国を目指す。
○改革に消極的だとして海外から「日本売り」が言われている今こそ、政治の責任で、人口危機にある日本がどんな国家を目指すのか、明確なビジョンを発信するべきである。
「人口危機に立ち向かうため日本は『移民国家』へ移行する」と政治が決断すれば、国際社会は国の形を「多民族国家」に変える究極の構造改革を評価し、「日本買い」に転じるだろう。
はたして移民受け入れで、それも自民PT案による受け入れで「日本買い」に転じるかどうか。よくわかりません。
それに、そもそも日本は「多民族国家」なんですけど。
上の2つの記事リンク(虚構の上に立ついやしの「極右」か、現実の上に立つ節度ある「極右」か、多みんぞくニホン、ナチス、自由民権運動)他でも書いてきたように。
そうでないのは、あなたたちの脳内だけ、ですぞ。
★
続いて、「2.日本文明の底力を活かす」の項です。
「日本文明」ねえ……。歴史改ざん主義の人たちがよく使っていた用語です……。はあ……。
○極東に位置する島国であり、社会の均一性が相対的に高いとみなされている日本は、移民の受け入れに適さないという声がある。欧米に比べて移民の受け入れ経験が少ないことは事実である。
しかし、厳しい試練の時を迎えて、日本の未来に危機感を抱く国民が移民国家建設のため立ち上がれば、50年間で1000万人規模の移民受け入れを達成することも決して夢でない。幸い日本には、移民が快適に暮らすことができる制度、精神風土、環境が整っている。
へえ、そうなんですか? で、具体的にどんな話かというと、
第1に、長年にわたり蓄積されてきた産業技術と、卓越する世界企業の存在である。
高い生産効率を実現することで世界経済を先導してきた産業立国としての日本のネームバリューは、気概に満ちた世界の若者を惹き付けるに違いない。
高い教育水準と充実した高等教育施設も、今後、留学生の受け入れを大幅に増やすための教育資源となる。
う〜ん、それはあるかも知れないけれど、日本の労働環境の悪さって、トヨタ方式の輸出とかで、じつはジワジワ知れ渡りはじめてませんか? 排他的な社会風土なんかも。
【関連特集】
◆こんな国では働けない 外国人労働者「使い捨て」の果て(日経ビジネス オンライン、井上 裕記者、2006.9.8)
さらに続く具体的なお話が、なんとも観念的で、怪しげ、危うげなものであります。
第2に、日本社会には「人の和」や「寛容の心」を重んじる精神的基盤がある。
日本の社会は、宗教を見ても神道・仏教・キリスト教などが仲良く共存している。古来、日本は「和をもって貴しとなす(十七条憲法)」を基本とする国柄であった。多様な価値観や存在を受け入れる「寛容」の遺伝子を脈々と受け継いできた日本人は、世界のどの民族も成功していない「多様な民族との共生社会」を実現する潜在能力を持っている。
多様な価値観や存在を受け入れるって、自民党には縁遠いことだと思ってましたが、そうですか、自民党は日本の伝統からはみ出した存在ってことですね、まさにナチスの後継者だと。
【関連記事】
◆「寛容の精神」のない国と、他の人間を平気で「人間以下」と見下す者/「多民族共生教育フォーラム2006愛知」から教育基本法改定を目論む日本政府へ(2006.11.13)
◆玉川大学問題の本質/人の多様性に合わせた社会デザインを(2007.1.19)
◆与野党、新たな対立軸!「人の多様性をどうとらえるか/国家と人間の関係をどうとらえるか」(2007.2.9)
えっ、そんな毎度のツッコミでは面白くない!?
う〜ん、そうかも。ちょっと別角度からツッコンでみます。
★国家神道が仏教やキリスト教を圧迫した歴史はどこへ行った?
★精神的基盤とか国柄とか、わけわからんものを土台にして、多様な人々が共に暮らす社会を健全なものに仕上げられると思ってんの??
★「「寛容」の遺伝子」って、これ、優生思想の、人種主義の、レイシズムでやっぱり選民思想???
★多様な価値観の尊重とか言いながら、「日の丸・君が代」の強制は何????
何も変わってない?(-_-;)?
で、次に挙げられるのが、これです。
第3に、恵まれた自然環境と豊穣な文化がある。
四季折々の風景、歴史遺産の水田や森林、地方ごとに特色ある日本料理や伝統芸能は、海外からの旅行者にすでに認知されており。今では年間800万人を超す観光客が日本を訪れている。亜熱帯のさんご礁、日本情緒豊かな温泉街、良質の雪に恵まれたスキーリゾートにはリピーターも多い。この「癒しの島」には理想の移住地としての条件が備わっている。
そう言えば、私の相方、物心ついて初めて日本を旅行したとき、「この世に天国があるとすればそれは日本だ!」と心底思ったそうです。その後、日本で暮らしはじめて、あれは幻想だったと幻滅させられたそうです。
「住めば都」の言葉はあれど、旅すると暮らすとでは大違いの日本社会であったというお話です。
第4に、日本社会にすでにいる「移民の背景を持つ人々」の存在がある。
何世代にもわたって多くの苦難を乗り越えて社会的地位を確立してきたオールドカマーに加えて、ニューカマーも来日からすでに20年を経て、200万人を大きく超える外国出身者とその子孫は、市民・永住者・定住者として、日本社会に根を張って生活している。すでに日本で生きるノウハウを身につけた彼らは、新来の移民たちと地域社会をつなぐ貴重な人材である。
自分たちが在日韓国・朝鮮人に向けてきた酷薄な政策を棚に上げて、よくまあそんな厚かましいことを言えたもんです。
【関連記事】
◆大阪府警が滋賀朝鮮初級学校へ不当な強制捜索(2007.2.4)
◆熊本朝鮮会館福岡高裁判決(2006.2.6)
◆朝鮮代表の入国が拒否されているが:「人権侵害」日本政府に非難集中(朝鮮新報)(2006.9.12)
◆調査資料「在日朝鮮人への人権侵害について」(2006.11.21)
◆【おすすめ<新刊>入門書】『外国人・民族的マイノリティ人権白書』(外国人人権法連絡会編)(2007.10.10)
◆「う」はウトロの「う」、植草教授の「う」(2007.10.17)
◆『週刊ポスト』「在日韓国人・朝鮮人「住民税 極秘半減」の免税密約を撃つ!」( ̄ー ̄)ニヤリ。そして、この秋、小学校教科書に登場したウソ( ̄_ ̄|||) どよ〜ん(2007.12.7)ほか
【関連ブログ&ニュース】
◆恥を知れ〜在日朝鮮人女性に関する公安情報リークに飛びついたメディアよ、反省せよ!(情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)、2007.10.7)
◆朝鮮人虐殺の謝罪要求(ロイター、2008.8.9)
関東大震災から85年となるのを前に、震災時に起きた朝鮮人虐殺事件の真相究明と謝罪、被害者の名誉回復を求める「朝鮮人犠牲者追悼シンポジウム」が9日、東京都内で開かれ、200人以上が集まった。主催は日本人、在日コリアン、韓国人の有志で組織する実行委員会。山田立教大名誉教授らが講演。シンポの結びでは「日本政府は朝鮮人虐殺を深く反省し、調査と謝罪を行うべきだ」との声明を採択した。【共同通信】
とまあ、こんなわけで、ここ何回かにわたって概観してきた自民党国家戦略本部の「日本型移民国家への道プロジェクト・チーム(PT)」の報告書。
肯定的に評価できるところもあるのですが、総体的には、まず土台にある思想に致命的な欠点があると思いますし、実現可能性がどれほどあるのかなあ、との疑問も感じます。
ウェブで公開されていないらしい点も残念です。せっかくの力作なので、広く議論を始めるきっかけにとウェブで公開すれば良いのにと思います。そうすれば、西部某のように見当外れな中傷を繰り出す者もいなくなるでしょうし。それに、当ブログのこれまでの記事では採り上げなかった提案もありますし(留学生30万人計画、100万人構想や、日本文化&日本語センター(Japan CLC)創設計画、二重国籍の付与の検討など在留資格制度の改正、外国人住民基本台帳制度の創設、日本型移民政策推進体制の話、など)。
ともあれ、当ブログが入れたツッコミの数々(あれこれ考えを進めながら記事を重ねてきたので、相互に矛盾があるやも知れません)が、移民受入論議、ハイパースペシャルウルトラ少子高齢化社会に備えるための論議、その参考になれば、幸いです。
特に、福祉国家的な未来を構想している野党の皆さま!
自民党を政権から追い落とした後に目指すべき社会を構想する必要性が、日に日に高まっているようです。ぼちぼちでも、情報収集や思索、議論を重ねていってください。
よろしくお願いしますm(_ _)m。
【関連記事】
◆移民受入と産地偽装、漁業スト、介護の現場と派遣労働。フェアトレード。(2008.07.23)
◆幻?の「日本の魅力」と看護師・介護福祉士、今ここにある「多文化・多民族・多国籍社会」という現実(2008.08.03)
◆?「野党はナチス」?「移民か日本の若者か」?(追記アリ)(2008.08.06)
◆お前が言うか、自民党。蹴倒しますぞ、うさキック!(追記アリ)(2008.08.13)
◆自民PT「日本型移民国家」を超えてゆけ、真夏の夜の夢!(2008.08.14)
◆注釈「不法滞在、どう対応」/【逆転の提言】「労働」資格!(2008.08.19)
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ここで、同PTが期待している「高度人材(大学卒業レベル)」の獲得に関して、ちょっと参考になるかも知れないエピソードを付け加えておきます。
先週、久方ぶりに、オランダ国籍の友人と話をしておりました。で、ご存知のとおり、私の相方はブラジル国籍。近所のパン屋が夏休みに入ってるという話をきっかけに、日本人の労働スタイルについて、こんな話になりました。
「日本だと長い休みがとれないよね。皆、忙しすぎる」
「ブラジルだと1カ月の休みとかあるのに」
「長期の休みがどれだけ仕事の能率を上げるか、体験したことがないからわからないんだろうけど、そろそろ日本人も考え直すべき時じゃない?」
「バブルの頃、日本的経営システムとか、すごく関心を持たれてもてはやされたけど、今はもうそうじゃない」
「今やトヨタ式経営とか、フィリピンで争議が大きくなってるみたいに、輸出したら迷惑がられたりとか」
長期休暇のとれる社会を!(そうでないと、高度人材、他国へ行っちゃうんじゃないの?)
その勢いで、ワークシェアで失業のない社会を!
フェアトレードの思想で、生産者、消費者、流通業者、小売業者、皆が持続可能な幸せを実現できる社会を!
そんな社会を築けたら、いいよなあ、なんて、ぼんやり思った夜でありました。
真夏の夜の夢!!
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下記2つの請願署名へのご協力、お願いします。集約期限は今月末です。
よろしくお願いいたしますm(_ _)m。
◆日本版US-Visitシステムの廃止を要望する国会請願署名、電子署名(国際結婚を考える会、IST請願の会)
◆重国籍の容認を求める請願署名、電子署名(IST請願の会)
【関連記事】
◆外国人の生体情報採取・蓄積・流用システムの問題点(2007.9.4)
◆人の尊厳と、連帯と!【請願署名ご協力のお願い】(2008.2.6)
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←記事、簡略化計画、次回こそスタート!?