テロ犯と誤認、11億円賠償:カナダ首相、第三国移送で謝罪(追記:中国残留孤児訴訟・東京地裁判決と日本政府)
2007.1.31.18:00ころ
(2007.02.01.6:35ころ、この色の部分、追記)
テロ犯と誤認、11億円賠償/カナダ首相、第三国移送で謝罪(京都新聞、2007.1.28/紙面版では1.29朝刊)
【ニューヨーク28日共同】国際テロ組織アルカイダの要員と誤認されたシリア系カナダ人男性が2002年、米国内で拘束後、シリアに強制移送された問題で、カナダのハーパー首相は26日、カナダ警察が米側に誤った情報を伝えたのが原因として男性と家族に謝罪、1050万カナダドル(約10億8000万円)の賠償金を支払う方針を発表した。
男性はシリアで1年近く拘置され、繰り返し拷問されたと主張。米主要メディアは、米政府が外国の治安機関と協力して外国人テロ容疑者を拘束、過酷な取り調べを受けさせるため中東諸国などに移送しているとされる問題の実例と伝えた。
この男性は情報技術者マヘル・アラル氏(37)。ハーパー首相は同氏を警戒対象者リストから外すよう米政府に求めたが、米側はテロ組織との関係が疑われる理由があるとして現時点でこれを拒否しており、両国間の外交問題にも発展しかねない雲行きだ。(共同通信)
拷問があったとの認定が、賠償金の金額に影響したのだろうと思います。
さて、昨春改定された日本の入管法(「出入国管理及び難民認定法」)では、入国審査時に「テロリストとして上陸を禁止された外国人」の入国を拒否し、送還するシステムや、法務大臣が「テロリスト」と認定した在日外国人を退去強制するシステムが導入されました。
それらのシステムが誰かをテロリストと誤認し、その結果、マヘル・アラル氏と同じような目に遭ったというケースが表れたとき、日本政府は同じように賠償金を支払うことになるのでしょうか。
今回の賠償金額は国際的な先例として残るわけですが、「自国民に対する賠償」という点で、「外国人をターゲットとする日本政府のテロリスト認定システム」とは微妙に違います。また、日本政府が当初予定している生体情報採取・保管・流用システムの年間予算70億円の16%近くに相当します。もし裁判などでこれだけの金額を請求されるなどすれば、あれこれ理由をつけて、日本政府は支払いを渋るような気がします。値切る気がします。
現政権の人権感覚・人権意識は、柳沢厚労相(まだ辞めてないかな?)の例の発言やそれに対する安倍首相の非常に寛容な態度に見られるように、極めて乏しいわけですし。
もちろん、人権感覚・人権意識の富んだ新しい政権ができれば話は別です。そういう政権なら、この生体情報採取・保管・流用システムの運用自体を取りやめるでしょうから、あれこれ心配する必要はなくなるはずです。前政権の失敗の尻拭いを除いては。
いずれにせよ、関連する国会会議録を読む限り、こういった事態を、日本政府は想定していないような気がします。
なにしろ、収集した指紋などの生体データが流出した場合にどんな被害が生じるのかという「プライバシー影響評価」(PIA)すらせぬままに、日本政府は入管法改定案を国会に提出していたのですから(杉浦法務大臣:5月16日:発言番号037)。
まあ、その場で「検討する」と言っていたので、さすがにその後、もうやっていると思いたいですが、どうも心配です。現政権の人権意識・人権感覚の乏しさが、ますますもって白日の下に曝されつつある昨今の様子を見れば、なおさらに。
昨日の報道によれば、日本人対象でも、こんな地裁判決がありました。
1人あたり3300万円の損害賠償請求を、国は争ってきている、と。
国の責任認めず=早期帰国、自立支援義務なし−中国残留孤児訴訟・東京地裁(時事通信社、livedoor NEWSより)
首都圏の中国残留日本人孤児40人が、早期帰国の実現や帰国後の自立支援を怠ったとして、国に1人当たり3300万円、総額13億2000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(加藤謙一裁判長)は30日、「早期帰国実現などの法的義務はなかった」として、国の賠償責任を認めず、請求を棄却した。全面敗訴の判決で、原告側は控訴する方針。
残留孤児が全国で起こした集団訴訟のうち、判決は3件目。先行した判決では、神戸地裁が国の責任を認めたが、大阪地裁は訴えを退けている。
加藤裁判長は、旧満州(中国東北部)への国の移民政策と原告らが孤児となったことの因果関係について、「法的な賠償義務の発生根拠となる関係があるとは断定できない」と述べた。その上で、国の実質的な植民地政策や戦争政策は高度の政治的判断に基づくとして、「本来、司法審査の対象ではなく、戦前の国策も例外ではない」と判断。「司法審査対象外の国の政策を、作為義務を発生させる先行行為として取り上げ、法的判断を加えることは疑問」と言及した。旧憲法下では、国策が前提となって発生した事態について国家賠償請求権を認める例はないとして、「孤児らの被害は戦争損害の範疇(はんちゅう)」と指摘。法律上の根拠がないのに、国家賠償義務を認めることはできないとして、「国に早期帰国実現と自立支援の法的義務はない」とした。
小日本の冬:中国残留孤児判決に 残留孤児敗訴 「正義のため闘う」 /神奈川(網谷利一郎・記者、毎日新聞、2007.1.31:livedoor NEWSより)
◇県内12人、無念さ訴え
原告敗訴となった30日の東京地裁の「中国残留孤児訴訟」で、傍聴した県内の原告12人は「中国に置き去りにされてから61年余り。政府も裁判所も冷たい。正義のため、控訴して闘う」と無念さを訴えた。
午後1時50分過ぎ、法廷から出てきた原告の山本斗南さん(63)=横浜市泉区=は「若い裁判長は戦争の実態も孤児の実情も分かっていない。夫婦で月7万円余の年金でがんばっているのに、本当に冷たい判決だ」と顔を紅潮させた。
東京地裁の2次訴訟原告の笠松恵子さん(66)も支援にかけつけ、死亡原告の遺影を胸に地裁の外で待っていた。横浜市営住宅に夫(69)と中国人養母(96)と暮らす。ホームヘルパーで働き月に12万円ほど。「中国で55年間も苦しみ、帰国して10年余りも我慢してきた。国も裁判所も孤児を見捨てている」と涙声で話した。
午後3時、原告弁護団の記者会見で原告代表の清水宏夫さん(69)=横浜市港南区=は「国の責任を認めた神戸地裁判決(昨年12月)に比べ、なんでこんなひどい判決が出るのか」と裁判所により判断が分かれる現状に疑問を投げかけた。
関東軍元憲兵で原告団代表相談役の菅原幸助さん(81)=鎌倉市=は午後4時過ぎ、杖(つえ)をつきながら孤児に生活支援金の立法化を求め、議員会館を訪れた。「せめて北朝鮮の拉致被害者並みの保障を実現したい。安倍晋三首相に面会を求めているが、返事が来ない」と話す。「残り時間は孤児も私も少ないだけに、原告団の立て直しも必要となろう」と今後の対応に苦渋の様子もうかがわせた。
「せめて北朝鮮の拉致被害者並みの保障を実現したい。安倍晋三首相に面会を求めているが、返事が来ない」
だそうです。
その後、安倍首相との面会はなって、話題の柳沢厚労相が「今年の夏まで(つまり参院選前まで?)に新支援策を作る」と約束したようですが、原告の控訴に対して争う姿勢は撤回していないようです、やはり。
<中国残留孤児>訴訟原告団代表9人が安倍首相と面会(毎日新聞、2007.1.31:livedoor NEWSより)
安倍首相は31日午後、首相官邸で中国残留孤児集団訴訟の原告団代表9人と面会した。孤児らが新たな給付金などの生活支援制度創設を求めたのに対し、首相は「今までも対応を講じたが不十分だった。新たな対策を考えたい」と約束。また、この後原告団と会った柳沢厚生労働相は、新支援策を今年夏までに作る考えを伝えた。
「入管法改定案に関する国会会議録より」シリーズの、議員さんたちのサイトなどへのリンクがきちんと張れていないことに気づき、修正しました。ワードで作ったデータをコピペしてたのですが、「"」が変な文字に勝手に置き換えられてたみたいです。ご不便おかけしてたかも知れません。どうかご容赦をm(__)m。
「入管法改定案に関する国会会議録より」シリーズ
1.【入管法問題】参院・衆院与党議員への宣戦布告(2006.05.09)
2.平沢勝栄議員の「テロ予告」!?(2006.09.22)
3.「またテロですよ!」(非国民通信)を読んで(2006.10.15)
4.共謀罪強行採決阻止のためのお役立ち情報、かも。(2006.10.20)
5.共謀罪審議に松島みどり議員が登場(2006.10.22)
6.教育基本法をイジる前に「外国人・民族的マイノリティ人権基本法」「人種差別撤廃法」の制定を!(2006.11.12)
7.「寛容の精神」のない国と、他の人間を平気で「人間以下」と見下す者/「多民族共生教育フォーラム2006愛知」から教育基本法改定を目論む日本政府へ(2006.11.13)
8.河野洋平・太郎父子、塩崎恭久&石原伸晃、議会制民主主義の破壊(2006.11.16)
9.「望ましい監視社会」!? 荒井正吾・参院「教育基本法に関する特別委員会」委員長(予定←変更アリマシタ)(2006.11.16)
10・外国人実習生への性暴力/植草一秀氏事件から見える「適正手続」問題(2006.12.27)
11.外国政府・メディア・市民に知られまいと日本政府が隠す目的(2006.12.30)
12. 「永住者」の扱いに関する立法事実と、政府による議会制民主主義の破壊(2007.1.10)
13.衝撃or当然(?)の検索フレーズ/政府と女性蔑視/国民投票法案バナー(by SOBAさん)(2007.1.28)
14.テロ犯と誤認、11億円賠償:カナダ首相、第三国移送で謝罪(2007.1.31)
15.テロの種まき、テロ対策!?(2007.3.17)
16.外国人の生体情報採取・蓄積・流用システムの問題点(2007.9.4)
