外国政府・メディア・市民に知られまいと日本政府が隠す目的(入管法改定案に関する国会会議録より)
2006.12.30.01:40ころ
まもなく2007年です。
2007年の11月23日までに、日本政府は、昨春の入管法改定で導入された、来日する外国人から指紋データなどを採取・長期保管するシステムを運用開始する予定です。
となると、「改定入管法をひっくり返す!」と考えている私にとっては、これからの1年弱が正念場なわけで、「入管法改定案に関する国会会議録よりシリーズ」を本格的に展開しなければなりません。
そこでまず、今日は、議論の基礎として、「指紋データ採取・蓄積システム」の隠された目的について、国会会議録から拾ってみたいと思います。
(表向きの目的)
それは、入国審査時の指紋チェック(ブラックリストとの照合)でテロリストの入国を阻止すること、とされています。
日本語版はもちろん、英語のパンフレットでも、最近発表されたひらがなつき日本語解説でも、そう書かれています。
国会審議での法案の趣旨説明でも、そう語られていました【杉浦法務大臣、2006年3月15日:発言番号100、2006年4月27日:発言番号003】。
しかし、それはあくまでも「表向き」のものに過ぎません。
国会会議録を読み解いていくと、「広報用パンフレットからは隠された」下記のような目的が、くっきりと浮かび上がってきます。
外国語のできる方は、どうか以下を翻訳して、外国語メディア関係者に情報提供していただければ幸いです。
1) 入国審査時にブラックリスト(テロリスト、退去強制者)と照合します。
退去強制者のリストとの照合については、法案の趣旨説明にありません。しかし、河野太郎副大臣【2006年3月17日:発言番号039】は、これまでに退去強制された者の違法な再来日を防ぐのが「最大の目的」だと説明しています。
2) 入国許可後・出国後も保有しつづけ、複数人名義の旅券で出入国を繰り返している者がいないかをじっくりチェックするために使います。「名寄せ」という利用方法です。
これも法案の趣旨説明にも国会への配付資料にもなく、委員会審議の過程で明らかにされました。生体情報の保有期間は70〜80年になるようです【河野太郎副大臣、2006年3月17日:発言番号029、3月22日:発言番号095ほか】。
「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」8条2項2号に基づき提供されることになります。
3) 外国入管当局、捜査・司法当局へ提供します。
これも法案の趣旨説明にはありませんが、「出入国管理及び難民認定法」61条の9に基づき、提供されることになります【杉浦法務大臣、2006年3月28日:発言番号278】。
4) 犯罪捜査に流用します。
これも法案の趣旨説明にはありませんが、三浦正晴・法務省入国管理局長【2006年3月17日:発言番号112、3月22日:発言番号049】は、蓄積したデータの入管業務以外での利用方法として「犯罪捜査」を真っ先に挙げました。
また、杉浦正健法務大臣は、入国審査時の生体情報採取は「政府全体として取り組んでおります治安対策、外国人犯罪対策及び不法滞在者対策にも資する」【2006年3月17日:発言番号005】と説明し、法案の趣旨説明に「それ(不法滞在者対策および外国人犯罪対策)もつけ加えておけばよかったかなと思っています」【2006年3月17日:発言番号122】と述べています。
「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」8条2項3号に基づき提供されることになります。
5) インテリジェンスシステム(在日外国人を監視する諜報システム)に組み込まれ利用されると予想されます。
インテリジェンスシステム構想については、衆院法務委員会には存在が秘匿されたまま、参院法務委員会においても内容が明確に語られないまま、入管法改定案の採決がなされました。これはおそらく、遠くない将来、日本人にも向けられるシステムではないかと思います。
【参考情報】外国人にICカード 登録情報の一元管理へ政府原案(2006.12.19、asahi.com)
外国人労働者らの居住地などを正確に把握するため、外国人登録情報を法務省入国管理局が一元管理する新制度の政府原案が19日、分かった。入管が氏名や国籍などを電子データとしてICに登録した「在留カード」を発行、外国人を雇う企業や市町村の情報も法務省が集約する。政府は、外国人労働者の受け入れ拡大に備えた体制整備の一環としている。
原案は、首相が主宰する犯罪対策閣僚会議の作業部会がまとめ、19日午後に同会議に報告した。政府は、関連する外国人登録法や出入国管理法の改正案を08年度に国会に提出する方向だ。
「在留カード」の対象者は、朝鮮半島を中心とした日本の旧植民地の出身者や子孫などの「特別永住者」や旅行などの短期滞在者を除き、主に80年代以降に来日した日系人やその家族。単純労働者を受け入れない政府方針の事実上の例外となっており、転居などのため居住地や滞在期間の把握が難しいとされる。
原案によると、対象者を市町村での外国人登録制度から除外。一方で市町村を窓口に氏名や生年月日、国籍、居住地、家族、在留期間・資格を届け出る制度は残し、届け出に入管発行のICカードを使う。入管は転居情報も含め一元管理し、在留更新の判断材料などにする。ICカード発行は05年に自民党内の検討チームが携帯の義務化を含めて提案しているが、「管理強化につながる」と警戒する声もある。
また、政府は来年の通常国会に提出予定の雇用対策法改正案で、外国人労働者の雇用状況報告を全企業に義務づける。内容も従来の人数や性別に加え氏名や年齢、国籍、在留期間・資格などに広げ、この情報も法務省が厚生労働省から得られるようにする方針だ。
【さらに参考情報】TIAプログラム
ACLU、米国一般市民に対する監視システムに警鐘
問題山積、米国防総省の国民データベース計画
もし昨春の法改定が「ブラックリストに搭載されているテロリストの入国阻止」を目的とするのであれば、入国審査時にブラックリストとの照合のすんだ指紋データなどの生体情報は、即刻消去してしまうのが論理的です。また、長期間保管することによるプライバシーなど人権侵害の可能性を考えるなら、即刻消去する方がはるかに合理的です。
しかし、あえて長期間保管して、さまざまな用途に流用しようとしているわけで、
この流用にこそ、自民・公明政権の本当の目的があると考えるのがこれまた論理的かつ自然です。
「テロ対策」と言ってしまえば何でもできると、きっと大喜びなんでしょう、アメリカに媚を売ってイラク侵略戦争を押し進めた結果、日本人がテロに狙われる危険性を高めてきた自民・公明政権の皆さんは。
もし本当にテロの危険を減らしたいなら、
「ありもしない大量破壊兵器をあると言ってイラクを侵略し、無辜の民を大勢虐殺することに加担しちゃってごめんなさい」
と謝罪することから始めるのが、国際的な信義のうえから最も筋が通っていると思うのですが、自民・公明政権には、そんな誠実さのかけらなどあるはずもない、というわけでしょう。
だいたい自民・公明政権は、アメリカ政府には「渡米する日本人の指紋データは、アメリカ出国時には消去してほしい」などと言っておきながら、日本に入国する外国人の指紋データは70年も80年も保管するよなどと主張するような一派なわけですし(これについては、河野洋平・太郎父子、塩崎恭久&石原伸晃、議会制民主主義の破壊の塩崎恭久&石原伸晃の項をご参照ください)。
これも外国政府・メディア・市民に日本政府が隠そうとしていることですね。
次回以降では、上記の目的をふまえたうえで、はたして昨春の入管法改定で導入された生体情報採取・保管・利用システムに合理性があるのか、批判を加えていくことにします。
これにて、本年の更新は終了です。
2007年が、皆さまにとっても素晴らしい年になりますように!
よい年をお迎えください。
「入管法改定案に関する国会会議録より」シリーズ
1.【入管法問題】参院・衆院与党議員への宣戦布告(2006.05.09)
2.平沢勝栄議員の「テロ予告」!?(2006.09.22)
3.「またテロですよ!」(非国民通信)を読んで(2006.10.15)
4.共謀罪強行採決阻止のためのお役立ち情報、かも。(2006.10.20)
5.共謀罪審議に松島みどり議員が登場(2006.10.22)
6.教育基本法をイジる前に「外国人・民族的マイノリティ人権基本法」「人種差別撤廃法」の制定を!(2006.11.12)
7.「寛容の精神」のない国と、他の人間を平気で「人間以下」と見下す者/「多民族共生教育フォーラム2006愛知」から教育基本法改定を目論む日本政府へ(2006.11.13)
8.河野洋平・太郎父子、塩崎恭久&石原伸晃、議会制民主主義の破壊(2006.11.16)
9.「望ましい監視社会」!? 荒井正吾・参院「教育基本法に関する特別委員会」委員長(予定←変更アリマシタ)(2006.11.16)
10・外国人実習生への性暴力/植草一秀氏事件から見える「適正手続」問題(2006.12.27)
11.外国政府・メディア・市民に知られまいと日本政府が隠す目的(2006.12.30)
12. 「永住者」の扱いに関する立法事実と、政府による議会制民主主義の破壊(2007.1.10)
13.衝撃or当然(?)の検索フレーズ/政府と女性蔑視/国民投票法案バナー(by SOBAさん)(2007.1.28)
14.テロ犯と誤認、11億円賠償:カナダ首相、第三国移送で謝罪(2007.1.31)
15.テロの種まき、テロ対策!?(2007.3.17)
16.外国人の生体情報採取・蓄積・流用システムの問題点(2007.9.4)